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職場において健全な「援助要請」を促すには 〜知っておきたいヘルプの出し⽅・出させ方〜


新年度がスタートする4月は、仕事環境が大きく変わるタイミングです。新入社員はもちろん、部下を指導する立場になって戸惑っている方、今年度からの働き方を変えたいと考えている方など、働くすべての人に知っておいていただきたい考え方として「援助要請(ヘルプシーキング)」があります。
 「個人が問題状況に遭遇し、自分で問題を解決できないとき、他者に援助を求めること」を心理学では援助要請と呼びます)。一人で対応できない困難を抱えているのに、誰にも相談しない現象がなぜ起こるのか?困難な状況そのものを隠してしまったり、差し出された援助の手を拒んだりするのはなぜか?に注目し、適切な援助要請行動を促進する研究が進められてきました。
 私たちは「仕事を頑張ることは自分に割り振られた仕事を一人でやり遂げること」と考えてしまいがちです。しかし、自分一人が対応できる範囲を知り、適切なタイミングでヘルプを出すこともきわめて重要なスキルです。本コラムでは、援助要請の必要性と実践方法、さらに援助要請の質についてご紹介します。

目次

Step.1 援助要請の必要性を知り、意識を変えよう
Step.2 援助要請を実践してみよう
Step.3 援助要請の「質」を考えよう

Step.1 援助要請の必要性を知り、意識を変えよう

近年、援助要請をビジネススキルと定義し、ビジネスを円滑に進めるうえで必要な考え方・行動と捉え、「誰でも意識して実践すれば上手になるもの」として認知を広める動きがあります2)。そこでは、仕事を抱え込みやすい人の共通点として次のような問題が挙げられています。

自分の普段の思考や行動を振り返り、思い当たる項目はないでしょうか?もし当てはまっていたら、仕事との向き合い方や他者との関わり方、組織やチームのあり方を見直すよいタイミングかもしれません。
 援助要請は、組織で働くすべての人が身につけるべきスキルとされています。援助要請を促すための仕組みを作り、援助を要請しやすい文化を醸成するためには、ヘルプを出しやすい環境であること、ヘルプを出した人に対して周囲が肯定的に対応すること、チームで情報を共有して業務の属人化・ブラックボックス化を防ぐこと、などが求められます。

 上記のような援助を要請しやすい組織文化は、チームの他のメンバーが自分を拒絶したり罰したりしないと確信できる状態、すなわち「心理的安全性」が高い組織のあり方と共通しています3)。心理的安全性が高い組織は生産性が高いことが知られていますが、援助要請も組織の成果を最大化しうる有用な手段といえるでしょう。

Step.2 援助要請を実践してみよう

援助要請の必要性と有用性を理解したうえで、援助要請を実践してみましょう。私たちが「誰かに助けを求めよう」と思うとき、いくつかのプロセスがあることがわかっています4)

①自分が抱えている問題に気づく
②他者の援助が必要であることを認識する
③援助を要請する意思決定を行う

上記の①と②は前後することもありますが、私たちは基本的にこれら3つのプロセスを経て援助要請行動に至ります。
①自分が抱えている問題に気づき、②他者の援助が必要であると認識するためには、予測の甘さや問題の先延ばし、判断の遅れなども含めて現状から逃げずに認識する必要があります。
 そのうえで「なぜ今助けを求めることができないのだろう?」と状況を分析し、「仕事ができないと思われたくない」、「忙しい相手に迷惑をかけたくない」、「拒否的な反応を返されたらどうしよう」などの援助要請行動を阻害している心理的ハードルを書き出してみましょう。これらのハードルには、自己肯定感や他者信頼感の低さなどが影響している可能性があります。自分の心理的傾向や考え方の偏りなどを客観的に把握し、受容することも援助要請行動を起こすための重要なステップです。
 ③援助を要請する意思決定を行う、すなわち「誰かにヘルプを出そう」と決心するためには、①と②の心理的ハードルを乗り越え、他人に頼る勇気が必要です。「自分は他人に頼るのが苦手だ」と感じている方は、自分にとってどのプロセスがボトルネックになっているかを考えてみましょう。

援助要請の実践時に注意したいのが、職場で従業員が適切なヘルプを出せないことは組織側の問題でもある、という点です。まずは援助要請を「組織全体で取り組むべき課題」と意識することが重要であり、組織側からの具体的なサポートや働きかけがあると、職場における援助要請行動がさらに促進されると考えられます。
たとえば援助要請に特化した定期ミーティングの設定、スキルアップやカウンセリング、育児・介護などの相談窓口の提供、福利厚生の充実など、具体的な受け皿を複数用意しておくと、援助を要請しやすい組織風土の醸成に繋がるのではないでしょうか。

Step.3 援助要請の「質」を考えよう

援助要請は、何でも・いつでも他人に頼ればよい、という考え方ではありません。
安易かつ過剰な援助要請は、自ら問題に取り組むことで得られたはずの成長機会を逃すだけでなく、援助のリソースを消費し、本来援助を受けるべき問題を抱えた人に援助が行き渡らない可能性も高まります。

では、適切な援助要請とは何でしょうか?臨床心理学では、援助要請の「量」だけでなくその「質」に注目し、以下の3つのスタイルに分類しています5)

自立型:困難を抱えた際に自身で問題解決を試み、解決が困難な場合にのみ援助を要請する
過剰型:困難を抱えた際に十分な自助努力を行わず、安易に援助要請を行う
回避型:困難を抱えても、問題の程度にかかわらず一貫して援助要請を回避する

これらの援助要請スタイルのうち、自立型の援助要請スタイルが望ましいことは言うまでもありません。しかし他者に援助を要請する際の最適な基準は、所属する文化や組織、タイミング、人と人との関係性などによって異なるため、援助要請後にその行動が自立型だったか、受けられたサポートが適切だったかどうかを評価するなど、「質」を意識したフィードバックを継続することが重要です。
 さらに援助要請行動の研究では、何をしてほしいかを明確に提示する「直接的な援助要請」と、情報を明示せず弱々しくふるまったり、自らを卑下したりすることで相手に察してもらい、暗にサポートを引き出そうとする「間接的な援助要請」を区別して考えます6)
直接的な援助要請は、誠実な態度で遠まわしな表現を使用せず、ストレートに自分の気持ちを相手に伝える「アサーティブ・コミュニケーション」にも通じる考え方です。
 一方、後者の間接的な援助要請は、援助を要請した相手から拒否的な反応が返ってくる可能性が高いことがわかっています6)
援助要請を拒否されると回避型になりやすく、解決できないまま問題を抱え込んでしまう悪循環に陥りかねません。援助要請を行う側も受ける側も自立型・直接的な援助要請を意識し、過剰型・間接的な援助要請が起こった場合、互いに指摘し合える健全な関係性を築くことが重要です。
新たな環境や人間関係がスタートする春、健全な援助要請行動を起こせる職場の環境づくりにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

参考文献:
1)DePaulo BM. Perspective on help-seeking. In DePaulo BM, Nadler A, Fisher JD(Eds.), New directions in helping. Vol. 2 Help-seeking. pp.3‒21. New York: Academic Press. 1983.
2)小田木朝子 『仕事は自分ひとりでやらない〜仕事を抱え込まず、周りに助けを求める技術「ヘルプシーキング」の教科書〜』 フォレスト出版、2022年
3)Edmondson A. Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Adm Sci Q. 1999; Vol.44: pp.350-83.
4)Gross AE, McMullen PA. Models of the help-seeking process. In DePaulo BM, Nadler A, Fisher JD(Eds.), New directions in helping. Vol. 2 Help-seeking. pp.45‒70. New York: Academic Press. 1982.
5)永井智. 援助要請スタイルの作成―縦断調査による実際の援助要請行動との関連から―. 教育心理学研究2013; vol.61: pp.44‒55.
6)Don BP, Girme YU, Hammond MD. Low self-esteem predicts indirect support seeking and its relationship consequences in intimate relationships. Personality and Social Psychology Bulletin. Pers Soc Psychol Bull. 2019; Vol.45: pp.1028-41.

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