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社員が組織に定着する「ジョブ・クラフティング」と「アイデンティティ・ワーク」とは?


前回のコラム、仕事も余暇も充実させる「バウンダリー・マネジメント」の始め方では、主に余暇の過ごし方に焦点を当てて「リカバリー経験」をご紹介しました。バウンダリー・マネジメントは仕事と余暇時間の境界(バウンダリー)を社員が自分で管理してコントロールする能力であり、オフの「休み方」からのアプローチです。では、オンの「働き方」から仕事を充実させる方法はあるのでしょうか?社員が「この組織で働き続けたい」と思えるような心のありようは、どのようなアプローチによって可能になるのでしょうか?

目次

・まずは「ジョブ・クラフティング」を知っておこう
・ジョブ・クラフティングに必要なアイデンティティの見つめ直し
・自分から仕事に歩み寄る「アイデンティティ・ワーク」

まずは「ジョブ・クラフティング」を知っておこう

近年、組織や働き方の変化、業務の複雑化、価値観の多様化などに伴い、急激な変化をいち早く捉えて自ら考え、行動できる人材が求められています。さらに従来のトップダウン式の意思決定では時代の変化に対応できず、社員が主体的に業務に取り組んで新たな価値を提供する必要に迫られるようになりました。こうした背景のもと、「ジョブ・クラフティング」という概念が注目されています。ジョブ・クラフティングを直訳すると「仕事を手作りする」ですが、仕事を新たに作り出すわけではありません。今ある仕事の境界(バウンダリー)を主体的に捉え直し、行動や認知を変化させることで、「やらされ感」のある業務をやりがいのあるものへ変容させる取り組みのことです。

何らかの境界(バウンダリー)をコントロールするという意味ではバウンダリー・マネジメントとよく似た概念ですが、ジョブ・クラフティングは仕事のオン・オフの境界ではなく、
仕事の内容や人間関係、仕事の捉え方の境界をコントロールしようとする考え方です1)。働く人々が自らの意思で仕事を再定義し、自分なりの工夫や新しい視点を取り込んでいくジョブ・クラフティングを行うことで、仕事や組織へのエンゲージメントが高まると考えられています。

ジョブ・クラフティングは、以下の3つの次元で構成されます(図)

①タスク境界の変更:仕事をしやすくするために必要な作業を追加する/不要な作業を減らす
②関係境界の変更:タスク遂行に関わる同僚や顧客などの他者との関係性を増やす/関係性の質を変える
③認知的境界の変更:自分のタスクや仕事全体の目的・価値について捉え方や意味づけを変える


①タスク境界の変更の具体例として、書店員がおすすめの書籍などをノルマではなく自らの創意工夫で紹介するポップ作りが挙げられます2)。ポップの掲示によって書籍の売り上げが上がったり、顧客からプラスの反応が返ってきたりすると書店員のエンゲージメントは大いに高まると考えられます。
 その他、作業効率化のためのツールの導入、仕事に必要な知識をインプットする時間の組み入れ、優先度が低い作業の見直しなどもタスク境界の変更です。

②関係境界の変更は、上司や先輩に積極的にアドバイスやフィードバックをお願いする、通常業務で接する人以外と会話する機会を増やす、といった工夫が挙げられます

③認知的境界の変更は、自己分析で洗い出した自分の強みや価値が仕事とどう結びつくのか、仕事を通じてどう成長してきたか、現在の仕事が自分の将来にどのような影響を与えるか、などについて考えることが仕事を前向きに捉え直す作業になります。


こうしたジョブ・クラフティングを行うことで仕事の経験を主体的に作り出し、仕事に新しい意味を見出せるようになります。さらに急激な時代の変化に対応できる人材として成長でき、組織に対しても新たな価値の創出、内側から変容する力などの好影響があると考えられます。

ジョブ・グラフティングに必要なアイデンティティの見直し

①タスク境界の変更、②関係境界の変更を主体的に行うための前段階として、「自分の仕事を工夫してやりがいのある仕事に変えよう」とする動機付けが求められます。動機付けが欠けた状態では、誰もわざわざ仕事のタスクを創意工夫しよう、新しい人間関係を構築しようとは思わないでしょう。

ジョブ・クラフティングを実践する具体的な手順は、まず動機付けとなる自己分析を通じて自己理解を深め、次に今抱えているタスクを洗い出して①タスク境界の変更、②関係境界の変更、③認知的境界の変更に取り組む、という流れになります。なかでも③認知的境界の変更は、ジョブ・クラフティングへの動機付けとも深く関連する作業と考えられます
「自分のタスクや仕事全体の目的や価値について、自分の捉え方や意味づけを変える」ためには、まず自分自身がなぜ働くのか、どんなことに意味や価値を見出しながら組織に所属しているのかを考えなくてはなりません。

これは、社会や組織との関わりにおいて「自分が何者か・自分らしさ(=アイデンティティ)」を考える作業でもあります
自身のアイデンティティを今所属している組織のなかで見つめ直し、これまでのタスクで自分らしさが発揮できたことや自身の強み、潜んでいた価値観などを洗い出すことが、ジョブ・クラフティングの実践に向けた動機付けの一歩と言えそうです

自分から仕事に歩み寄る「アイデンティティ・ワーク」

キャリアにおいて、社員が自身のアイデンティティを新たに形成・修正したり、維持・強化したりする活動のことを「アイデンティティ・ワーク」といいます3)。一つの組織に長く所属し、やりがいを持って働き続けるためには、アイデンティティの柔軟性を高め、所属する組織や社会環境の変化に主体的に適応するアイデンティティ・ワークが求められます。

では、私たちはいつ、どのような理由でアイデンティティ・ワークを実践するのでしょうか?

所属する組織の環境や方向性が変化したとき、私たちのアイデンティティは脅威にさらされます。すると組織と自分を結びつけるためにアイデンティティ・ワークを行うか、あるいはアイデンティティを変えずにその組織から離れるか、という2つの選択肢の間で迷うことになります。

組織内での昇進や異動などで自分の立場や役割の変更を迫られたとき、すなわち「他者から期待される役割」と「自己が認識している役割」との間にギャップが生じたときも、私たちはアイデンティティ・ワークか離職かの岐路に立ちます。
その際に組織を離れるのではなく、今、ここ」で働く意味や価値を自ら作っていくこと、そして自分と組織の関係性を見つめ直し、能動的に自分を変えていくアプローチがアイデンティティ・ワークといえるでしょう言い換えると、組織の変化や自身の立場の移行、アイデンティティの危機こそがアイデンティティ・ワークを行うチャンスです。特に目まぐるしく変化するVUCAの時代では、働く人々は常にアイデンティティ・ワークを実践し続けることが求められています。組織の変化や自身の立場・役割の変更などの外的要因とは別に、自分の価値を高めたい、社会的に意義ある仕事ができる組織に所属したい、他人とは違う仕事がしたい、といった欲求が湧いてきたときも、アイデンティティ・ワークのチャンスになりえます。

アイデンティティ・ワークはジョブ・クラフティングを構成する3次元すべての基盤であり、ジョブ・クラフティングを実践しようとする動機付けの一部と考えられます
(図)ジョブ・クラフティングの①タスク境界の変更、②関係境界の変更は組織内・外での物理的なタスク調整や許可、周囲のメンバーを巻き込んだ交渉・協力を必要としますが、③認知的境界の変更はアイデンティティ・ワークとともに他人の力を必要とせず、自分の心ひとつで行うことができる作業です。

不確かさの時代に自分自身の手で仕事の境界(バウンダリー)をコントロールすること、その基盤となるアイデンティティ・ワークを意識的に行うことは今後ますます重要な活動になりそうです。ジョブ・クラフティングやアイデンティティ・ワークの考えを取り入れながら、「今・ここ」で働く意義や価値について改めて考えてみてはいかがでしょうか

参考文献:
1)高尾義明. ジョブ・クラフティング研究の展開に向けて: 概念の独自性の明確化と先行研究レビュー.経済経営研究.2019; vol.1: pp.81-105.
2)森永雄太.ジョブ・クラフティングを通じた職務の再設計. 産業看護.2014;vol.6:pp.32-36.
3)Caza BB, Vough H, Puranik H. Identity work in organizations and occupations: Definitions, theories, and pathways forward. Journal of Organizational Behavior. 2018; vol.39: pp.889-910.

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