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仕事の「やらされ感」をなくすには 〜心理的オーナーシップの高め方〜

1月は年末年始でリフレッシュし、新たな気持ちで仕事と向き合うには最適のタイミングです。しかし長期休暇が明けても働く意欲が湧いてこず、「やらされ感」を抱えたまま仕事始めを迎えたという人もいるかもしれません。自分自身が感じるやらされ感はもちろんのこと、チーム全体に蔓延するやらされ感はパフォーマンスやエンゲージメントの向上において大きな妨げとなってしまいます。

やらされ感に厳密な定義はありませんが、対となる概念としては「自分ごと化」や「当事者意識」などが挙げられます。
具体的にはリーダーや上司からの指示待ちではなく、各社員が携わっている仕事やチームのために主体的・自律的に行動できる状態と考えられるでしょう。

やらされ感を軽減するためには、行動経済学でよく目にする「心理的オーナーシップ(psychological ownership)」の概念がヒントになります。
心理的オーナーシップとは対象と人間との心的結びつきを指し、個人が所有の対象(物質的または非物質的)またはその一部が“自分のもの”であるかのように感じている状態で、コントロール・プライド・責任にかかわる基本的な所有意識のことをいいます1)

心理的オーナーシップの概念は組織論の文脈で研究が開始され、職場に対する個人のモチベーション要因の1つとして注目されてきました。しかし近年、マーケティング分野における消費者行動の文脈で注目されつつあります。

たとえば音楽や動画などの有形・無形のコンテンツ消費に関する行動の多様化や、いわゆる「推し活」などにおいて「(実際には所有していなくても)自分のものだ」と感じることで起こる消費行動の変化などに関心が集まっているのです2)
自分の仕事や職場において心理的オーナーシップを高めることは、「これは私のプロジェクトだ」、「この職場が私の居場所だ」と感じることで仕事上の行動を変えていこうとする試みとも言えます。

本コラムでは、なぜビジネスにおいて心理的オーナーシップを高める必要があるのか、心理的オーナーシップを高めてやらされ感をなくすにはどうすればよいか、について考えてみたいと思います。

目次

心理的オーナーシップはなぜ必要か?
 ・働く側のメリット
 ・企業側のメリット
心理的オーナーシップを高めるには?
 ・働く側からの心理的オーナーシップの高め方
 ・企業側からの心理的オーナーシップの高め方

心理的オーナーシップはなぜ必要か?

働く側のメリット

人間には生まれつき/あるいは社会的経験によってオーナーシップ(所有すること)への欲求が備わっていると考えられています。心理的オーナーシップのモチベーションとして①自己効力感②自己同一性(アイデンティティ)③居場所の獲得感④刺激が挙げられており、組織に所属して自身のプロジェクトやチームを「所有する」ことでこれらの動機が満たされます3)

また、「自らの仕事をコントロールできている」という自己効力感は、社員に対してよい影響をもたらします。実際、仕事のスケジュールやタスクの内容、意見出しなどを自由にコントロールできる職場ほど社員の仕事満足度は高くなり、ストレス負荷が大きい作業であってもネガティブになりにくい傾向が明らかになっています4)
さらに、プライドと責任をもって自身の仕事に向き合えば、自身の作業がプロジェクトのどの段階に位置しているか、前後の工程にどのように影響しているか、という視野が広がります。プロジェクト全体の流れを意識することで、自身が担当している仕事の意味を見出すことができ、改めてプライドと責任感が高まっていく、という好循環を生み出せるかもしれません。

このように社員の心理的オーナーシップが高まると、「自分がチームに貢献している」もしくは「組織に好影響を与えている」という自負からやりがいに繋がり、ワーク・エンゲージメントも高まると考えられます

企業側のメリット

変化が激しく将来の予測ができない時代に、事業課題や業務目的を抽出して迅速に対応するためには、かつてのように組織の上意下達のプロセスを踏んでいては間に合いません。現場の当事者が主体的・自律的に意思決定し、問題解決に向けて行動せざるをえない時代に、やらされ感を抱えて他人ごとのように業務に当たり、上からの指示を待っている社員は組織にとっても困りものです

一方、心理的オーナーシップが高い社員は業務やサービスを自分ごととして捉えるため、自身に与えられた裁量権のなかでミスや無駄を減らし、質を改善するための効率的な方法を創意工夫し、事業課題に対応できると考えられます。すると組織全体としてのパフォーマンスの向上、各人材の成長にも繋がり、社員のワーク・エンゲージメントが高まることでさらなるプラスの循環が期待できます

心理的オーナーシップを高めるには?

働く側からの心理的オーナーシップの高め方

心理的オーナーシップの理論では、心理的オーナーシップを高めるための先行要因として
①コントロール感②詳細な知識③自己投資が挙げられています。

①仕事に対するコントロール感:
自分が所属する組織や担当するプロジェクト、作業などをコントロールできるという感覚が高まると、それらに対する心理的オーナーシップも高まります。

②仕事に関する詳細な知識:
自身が関わっているプロジェクトや組織について多くの情報・知識を得ることで、仕事に対して親密さや自負を感じるようになり、結果的に自己の一部としての心理的オーナーシップが高まります。

③仕事に対する自己投資:
仕事や組織に対して労力や時間、注意、財を投資することで心理的オーナーシップが高まります。

心理的オーナーシップの研究1)では、これら3つの要因を高めることは心理的オーナーシップのモチベーションとなる①自己効力感、②自己同一性(アイデンティティ)、③居場所の獲得感、④刺激と同時に可能であり、相互に補完し合うことで心理的オーナーシップを高めると考えられています図)

「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれませんが、知識の獲得にせよ、自己投資にせよ、まずは「仕事だから仕方なく」というやらされ感から脱却し、「自分の所有欲を満たして心理的オーナーシップを高めるため」と捉え直すことで、行動自体が変わってくるはずです。

企業側からの心理的オーナーシップの高め方

企業側から心理的オーナーシップを高めるには、心理的安全性とビジョン・パーパスの共有がキーワードになります。

①心理的安全性が担保された組織風土を醸成する:
ビジネスにおける心理的オーナーシップの成立要件には、仕事をある程度自由にコントロールできる裁量権が含まれています。ただし「もしも自分の判断で勝手に仕事を進めて失敗したらどうしよう」という懸念があると、心理的オーナーシップは高まりません。

チームでコミュニケーションを取り合いながら、失敗する可能性と回避方法について率直に対話できる環境、すなわち心理的安全性を担保しておくことが重要です。言い換えると裁量権を与えて放任するのではなく、慣例や縛りが少ない環境で仕事を主体的・自律的に進められる組織風土の醸成が求められます。


②共有できるビジョン・パーパスを作る:
社員が心理的オーナーシップを高めるためには、組織のビジョン・パーパスを明文化しておく必要があります。ビジョンは企業の未来の展望や将来像を意味し、パーパスは社会から見たときのその企業の存在意義やポジショニングを指します。ビジョン・パーパスを明確にし、社内に発信して共有することで、個々の社員が目指すべき方向と自分の役割を理解し、主体的・自律的に行動できるようになると考えられます。

このように、心理的オーナーシップを高める試みは企業と社員にとって相互利益につながる取り組みといえそうです。まだ2024年は始まったばかり。お気に入りの音楽をサブスクで楽しむように、あるいは「推し」を推すように、自身の仕事に対するコントロール感のアップ、より深い知識の獲得、自己投資のどれか1つから気軽に始めてみてはいかがでしょうか。



参考文献:
1)Pierce JL, Kostova T, Dirks KT. Toward a theory of psychological ownership in organizations. Academy of management review. 2001; vol.26: pp.298-310.
2)山本晶.心理的所有感.マーケティングジャーナル.2023;43:p.4-6.
3)Pierce JL, Kostova T, Dirks KT. The state of psychological ownership: Integrating and extending a century of research. Review of general psychology. 2003; vol.7: 84.
4)Lin BYJ, Lin YK, Lin CC, et al. Job autonomy, its predispositions and its relation to work outcomes in community health centers in Taiwan. Health Promot Int. 2013; vol.28: pp.166-77.



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