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仕事も余暇も充実させる「バウンダリー・マネジメント」の始め方

目次

・仕事と余暇の境界をマネジメントする意識を持とう
・バウンダリー・マネジメントで重視される「リカバリー経験」
・リカバリー経験を実践するためのアイデア
  ―心理的距離
  ― リラックス
  ― 熟達
  ―コントロール


仕事と余暇の境界をマネジメントする意識を持とう

休日前は「オフを有意義に過ごそう」と思っていても、いざ休日になるとダラダラしてしまって予定通りの活動ができず、罪悪感を感じながら休み明けを迎えたことはありませんか?「せっかくの休みなのに何もできなかった!」というネガティブな気持ちは、仕事のモチベーションやパフォーマンスの低下にもつながりかねません。
 近年、余暇を充実させることで仕事に対してやりがいや誇りを持ち、働くことで活力が得られる充実した心理状態(ワーク・エンゲージメント)を高めるための考え方として、「バウンダリー・マネジメント」が注目されています。バウンダリーは境界(boundary)を意味し、バウンダリー・マネジメントは仕事と余暇時間の境界を自分で管理してコントロールする能力です。

 厚生労働省が発表した「令和元年版 労働経済の分析」では、バウンダリー・マネジメントについて「働くときはしっかりと働き、休むときはしっかりと休むことで、後日再び就業するときに良質なパフォーマンスの発揮に結びつけていき、その両方の時の間にポジティブな循環を生み出していく」という説明がなされています。実際、同分析では「バウンダリー・マネジメントができている」と自己評価している人は働きがいが高く、バウンダリー・マネジメントはワーク・エンゲージメント向上の観点からも有用であることがわかっています1)。

 さらに、働きがいが高い人が心掛けている取り組みとしては「家族や恋人と過ごす」のほか、「自己管理力を高める」、「普段からプライベートの話を職場で出来る人間関係を構築する」、「余暇時間に仕事が気にならないよう、計画的に業務処理する」などの業務遂行に関連したものが多いことが明らかになりました1)
 健康経営の観点から働きがいの向上を目指し、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を考えるうえできわめて重要な能力です。また、社会で働くすべての人が自律的にキャリアを考える人生100年時代に、オンとオフを意識的にコントロールするバウンダリー・マネジメントは今後ますます注目されるものと考えられます。
 しかし、余暇の充実は口で言うほど簡単なことではありません。いつでも・どこでも働けるテレワークや勤務制度が一部の企業で継続され、仕事と余暇の境界線が曖昧になっている今、バウンダリー・マネジメントはさまざまな場面で必要とされる能力になりそうです。


バウンダリー・マネジメントで重視される「リカバリー経験」

バウンダリー・マネジメントでは、余暇を「仕事によって消費された心理的資本を回復するもの」だと考えます。心理的資本については「人的資本経営のベースとなる「心理的資本」 〜人的資本・社会関係資本・心理的資本を知ろう③〜」で概説した通り、働く際に私たちが持っている希望や自己効力感、レジリエンス、楽観性のことです。これらの心理的資本は日々の仕事のストレスや疲労によって徐々にすり減ってしまうため、仕事から離れて回復させる必要があるのです。
 仕事で消費された心理的資源を回復させるための余暇の活動を、心理学用語で「リカバリー経験」といいます2)リカバリー経験は「心理的距離」、「リラックス」、「熟達」、「コントロール」の4要素で構成されます(図)。仕事から離れてリラックスすると仕事中に生じた負荷が軽減し、心理的資本の消費が止まります。そこに新たな学びや経験を補完・獲得し、コントロールを通じて自己効力感を取り戻すことが心理的資本の回復につながるという考え方です。

 実際、日本で働く2,520名を対象にリカバリー経験とワーク・エンゲージメントとの関係を分析した研究では、「心理的距離」、「リラックス」、「熟達」、「コントロール」はいずれも精神的ストレスと身体的疲労を低下させ、仕事のパフォーマンスを向上させることが明らかになりました3)。ただし、「心理的距離」以外の3要素はワーク・エンゲージメントを向上させましたが、「心理的距離」だけがワーク・エンゲージメントの向上と関連しませんでした。これは、私たちが余暇に頑張って仕事から距離を置いたつもりでも、実際には仕事を気にして十分にリカバリーできていない可能性を示しているのかもしれません。


リカバリー経験を実践するためのアイデア

では、どのようにリカバリー経験を実践すればよいのでしょうか?「心理的距離」、「リラックス」、「熟達」、「コントロール」のそれぞれの要素について、個人ができることと企業側での取り組みについてご紹介したいと思います。

心理的距離

仕事から物理的に距離を置くために、休日は仕事用のパソコンやスマホ、資料などが目に入らないようにすること、仕事の人間関係とは別の人間関係を構築してそこに身を置くことを心がけましょう。企業側の取り組みとしては、パソコン強制終了ソフトの活用や脱スマホ手当、デジタルフリー奨励金などが行われています。  一方で、物理的に仕事と離れていても、心理的な距離を置けていない場合はリカバリー経験としては不十分です。休日前にキリのいいところまで仕事を終わらせておくこと、自分がいない間の対応をシステム化しておくこと、休日の過ごし方について理解が得られる人間関係をチームで築いておくこと、なども重要になります。

リラックス

「心理的距離」をうまく取ることができたら、次は「リラックス」です。しっかり睡眠をとって目覚めた休日の朝には、マインドフルネスなどの呼吸法、リラクゼーション法を活用して意識を切り替えるとよいスタートが切れます。「休むときは休む」というマインドセットのもとで心身の活動量を低下させることが重要ですので、明日の仕事を心配しながらベッドでゴロゴロ、という休み方では残念ながら「リラックス」にはならない可能性が高くなります。
 企業側の取り組みとしては、カフェテリアプランによる旅行・レジャー支援やリフレッシュ休暇などが実施されています。カフェテリアプランは企業が社員に一定の補助金・ポイントを支給し、社員はその範囲内で用意された福利厚生メニューを選択できる仕組みです。

熟達

「心理的距離」を置いて「リラックス」ができたら、次は能動的な行動に移ります。「熟達」は仕事に直結する内容ではなく、自分の仕事とは無関係な領域を学ぶことで達成されます。新しい習い事や趣味のサークル、セミナーに参加してみる、異業種と接する場に顔を出す、といったチャレンジが効果的です。  人と接する体力・気力や時間がなくても、「こんな世界もあるんだ」という心の動きが重要ですので、読み放題のサブスクなどで知らないジャンルの書籍や雑誌を気軽に読んでみるのもよいでしょう。企業側の取り組みとしては、フレキシブルキャリア休職制度やサバティカル休暇、資格手当などがあります。

コントロール

最後に、余暇時間を自分で決められる状態を指す「コントロール」は「心理的距離」、「リラックス」、「熟達」のいずれの段階においても基礎となる要素です。「思わぬ休日出勤で休みが潰れた」、「休みなのに自分の思ったことができなかった」という場合はこの「コントロール」が不足していると考えられます。3つの要素でご紹介したアイデアと並行して、まずはプライベートな空間を快適に整頓する、などの小さな試みから自己効力感を取り戻していくことが重要です。 企業側の取り組みとしては、育児休暇制度、介護休暇制度、病気休暇制度などがあります。  よりよい働き方は、充実した余暇があってこそです。企業にとって重要課題であるワーク・エンゲージメント向上のためにも、リカバリー経験を活かしたバウンダリー・マネジメントの理解と実践、そのためのサポートが重要になります。まずはこの週末に向けて、バウンダリー・マネジメントを始めてみませんか?


参考文献
1)厚生労働省:令和元年版 労働経済の分析人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について.[https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1.pdf]
2)Sonnentag S, Fritz C. The Recovery Experience Questionnaire: Development and Validation of a Measure for Assessing Recuperation and Unwinding from Work. J Occup Health Psychol. 2007; 12: 204-221.
3)Shimazu A, Sonnetag S, Kubota K, et al. Validation of the Japanese version of the recovery experience questionnaire. J Occup Health. 2012; 54(3): 196-205.


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