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  • 未来思考で始める企業の気候変動対策_前編

人間活動が起こす温暖化をどう止めるか?

気候変動の影響とされる自然災害が増え、昨今の猛暑や豪雨に危機感を抱いている人は多いと思われます。猛暑や気候変動がわれわれの生活や経済活動に及ぼす悪影響は計り知れません。今この気候変動対策を先延ばしすれば、私たちの子ども世代や孫世代が安全に暮らし続けることは困難かもしれません。「環境問題は難しい、他人ごとだ」と思わず、今こそ環境問題を「自分ごと」とするタイミングです。
関西ビジネスインフォメーション(KBI)では環境活動に取り組み、GX(グリーントランスフォーメーション)研修や各種サービスにより、GXを推進する各企業をサポートしてきました。今回、気候変動に対してアクションを起こす普及・促進活動の一環として、脱炭素への取り組みで大きな成果を上げてこられた平田仁子さまにお話を伺いました。(後編はこちら)


平田仁子:Climate Integrate代表理事。2021年ゴールドマン環境賞/BBC 100 Women 2022/社会科学博士/
千葉商科大学大学院客員准教授/市川市参与/気候ネットワーク理事


STEP1 個人が今できること

気候変動を「自分ごと」と捉えて第一歩を踏み出す

― 近年の異常な暑さは過去に例がなく、私たちの普段の生活にも深刻なダメージを与えています。この極端な暑さや異常気象は、今からでも食い止められるのでしょうか?

平田  「気候変動を今からでも食い止められるか?」という問いに対する答えは、「イエス」です。現在世界的に起こっている気候の異変は、単なる自然現象ではありません。18世紀に起きた産業革命以降、人類が化石燃料を燃やすことで排出し続けてきた温室効果ガスの影響により、地球の平均気温がわずか150年あまりで1.1℃も上昇してしまったことがわかっています。「たった1.1℃?」と思われるかもしれませんが、これは過去2000年で前例のない急激な変化であり、今まさに起こっている温暖化は自然要因だけでは説明できません。

現在の世界の取り組みでは、2100年には地球の平均気温は最大2.6℃から3.1℃上昇することが予測されています(図1)。2100年は2024年生まれの子どもたちが生きている世界で、そう遠い未来ではありません。気温が危険水準に突入してしまう前に、温室効果ガス排出の大幅削減へと大きく舵を切る必要があります。気候変動の原因が人間の活動である以上、私たちのアクションで食い止められる問題でもあるはずです。


将来の気温上昇について、私たちの前には5つのシナリオがあります(図1)。いずれのシナリオでも現在より温暖化が進むことが予測されていますが、気温上昇幅が大きければ大きいほど私たちの暮らしや経済活動に及ぶ影響は激しく、壊滅的になります。産業革命前からの気温上昇を
最小限の1.5℃に抑制するシナリオを選びとっていくために、気温上昇はまだ食い止められることを知っていただきたいと思います。逆に、今すぐ行動を始めないと気温上昇を食い止められず、
将来的に過酷な環境下で「2024年が一番涼しかったね」と嘆く道しか残されていないかもしれません。


― 気候変動による影響の中でも、異常な暑さが一番身近で深刻に感じられます。気候変動を食い止めるために、私たち一人ひとりに何ができるのでしょうか?

平田 日本を含む世界のさまざまな地域で極端な異常気象、豪雨や大洪水、台風、森林火災などが起きていますが、なかでもここ数年の異常な高温は多くの人が体感し、熱中症や死亡リスクなどとも関連する切実な問題といえるでしょう。

近年は報道でも気象関連の話題が増え、2024年7月には国連事務総長が記者会見において世界各地で危険な熱波が起きていること、労働人口の7割以上にあたる24億人が猛暑のリスクにさらされていることを警告しました。さらに冷房設備がない住宅に住む社会的弱者や労働者の保護を訴え、世界の気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃以内に抑制するという目標達成に向けた行動を呼びかけています。

日本でも2024年から「熱中症特別警戒アラート」が開始されるなど、暑さから身を守ろうという個々の意識は年々高まっているようです。ただ、「暑さから身を守ろう」だけに止まるのでなく、「暑さの原因を解決しよう」への思考の転換が求められます。そのためには、まずは私たち一人ひとりが気候変動という問題を知ることから始めなくてはなりません。

気候変動対策はこれまで長く語られてきたテーマであるにもかかわらず、多くの人は冷暖房の温度を高く/低く設定したり、電気をこまめに消したり、シャワーの時間を短くしたり、といった個人レベルの我慢や負担を対策と考えてしまいがちでした。言い換えると、地球規模の気候問題に関心を広げることなく、身の周りの省エネルギー対策だけで終わらせてしまうことが多かったのです。

しかし、こうした個人の努力に依存した取り組みは私たちの生活の質を下げてしまうものになりがちです。そして何より、今起こっている気候変動は個人の努力でどうにかなるものではありません。本来の気候変動対策は、温室効果ガスを排出し続ける産業やエネルギー構造そのものを転換し、今よりも豊かな生活に繋げていくべきものです。

個人が今できることは、動かずにいることが将来の気温上昇に及ぼす影響に気づき、気候変動に興味を持って知ろうとすることです。自分なりに調べてみて、そこで頑張っている人たちに興味を持って、応援してみる。そうやって少しずつ関心を広げていくことが重要です。私が脱炭素に向けた活動を始めたのも、大学時代に気候変動という問題を知ったことがきっかけでした。


インタビュー中の平田さま

― 平田さまご自身が気候変動問題を知ったことがきっかけで活動を始められたとのことですが、どんな経緯で今があるのでしょうか。

平田 1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された地球サミットで、東南アジアの森林破壊の問題などを初めて知りました。人間がゴミを出して川を汚すようなスケールの問題ではなく、地球規模で環境が破壊されていること、自分が環境を破壊するシステムの一部に組み込まれていること、その事実を知らずにのんきに暮らしていたこと、それらすべてが大学生だった私にとっては衝撃でした。

当時は何をしてよいのかもわかりませんでしたが、社会のシステムを根っこから変えないと解決しない問題であることは理解できました。まずは出版社に就職し、働きながら自分に何ができるか、自分を気候問題にどう寄せていったらよいのかを調べ、考えてみたのです。すると環境破壊や気候問題に国際連合が対応できていないこと、政府や企業もこの問題に向き合っていないことがわかってきました。「これなら私にも何かできるかもしれない」と、気候問題に正面から向き合える場所や組織を調べ、国外にNGOが数多く存在するという情報に辿り着きました。そこで1996年に気候問題とその対策を学ぶために渡米し、NGOが政策立案にインパクトを与えていることを学びました。

今もなお「私にできることは何だろう」と自分を気候問題に寄せていく模索は続いています。今の私が取り組んでいる仕事は「きっかけ作り」です。このコラムを読んだ皆さんが気候変動問題に興味を持ち、第一歩を踏み出してもらえれば幸いです。


STEP2(基礎) 企業が今できること

温室効果ガス排出削減=企業価値の向上と捉えて行動変革する

―― 次は、企業ができる気候変動対策についてお伺いしたいと思います。まず、企業は今起きている気候変動にどのように関わっているのでしょうか?

平田 温室効果ガスの主な排出源は企業活動です。エネルギーを作る発電部門が2022年度に排出された温室効果ガスの38%を、このうち石炭火力発電は全体の23%を占めています(図2)。発電部門だけでなく、そこで作られた電力を各企業の活動のために使うこともまた気候変動に影響を及ぼします。発電部門に次いで温室効果ガス排出量が多い運輸や鉄鋼・製造などのインフラ産業は、すべての企業活動を支えています。

企業活動は日々の人間活動を成り立たせ、同時に温室効果ガスを排出します。だからこそ、気候変動対策において変化を起こす最大の担い手は企業なのです。企業が主たるアクターとなり、インフラの転換や事業の移行、産業構造の転換を促進し、利益を上げながらも人々が豊かに暮らせるシステムを作っていく必要があります。しかも日本の温室効果ガス、特に二酸化炭素(CO2)は上に挙げたような特定の部門・業者に偏っているため、どの部分を重点的に削減するか、エネルギーや産業の仕組みをどう変えるか、そのためにできることは何か、と考えを進めていかなくてはなりません。最も排出量が多い発電部門では、石炭などの化石燃料の利用を削減して脱炭素化し、太陽光や風力、地熱、バイオマスなどの自然資源による再生可能エネルギー(再エネ)への切り替えを進める必要があります。

― 企業でもGX(グリーントランスフォーメーション)やカーボンニュートラルの考え方が注目されています。企業が知っておくべき具体的な削減目標を教えてください。

平田 産業革命以前からの気温上昇を1.5℃に抑えるためには、世界全体のCO2排出量を2030年で半分に、2050年にはカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量から植林・森林管理などによる吸収量を差し引いた合計を実質的にゼロにする)を実現する必要があります。それまでに排出できるCO2量をカーボンバジェット(炭素予算)といい、このまま対策が進まなければ2030年までに人類は残りのバジェットを使い切り、1.5℃以上の気温上昇が起きてしまうことが試算されています。

日本政府は2020年に「カーボンニュートラル宣言」を行い、2030年までに温室効果ガスの46%削減、さらに50%削減(2013年度比)を目指すことを表明しました。2020年までの目標は低くとどまっていましたので、それに比べると現在の目標は、より大きな削減を目指すものです。

各企業の取り組みも自発的に可能な対策から手をつけていくアプローチが主でした。これは現在を起点として未来の目標を描くフォアキャスティングであり、政府からの規制やインセンティブがない状況では企業の経営方針を変えるまでには至りませんでした。

しかし今は、企業の対応もフォアキャスティングでは間に合わなくなっています。2030年の46%から50%削減、2050年カーボンニュートラルという未来像から逆算し、これからの道筋を描くバックキャスティングが求められるようになったのです。現状と未来の姿にはまだ大きなギャップがあり、脱炭素の要請に企業活動をどうすり合わせるかという厳しい命題に向き合わざるをえない状況になりました。

― 企業にとっては難しい状況ですが、今取り組まないことで起こるデメリット、逆に脱炭素に取り組むことで得られるメリットはあるのでしょうか。

平田 「脱炭素経営に転換することで企業利益が失われないか?」あるいは「今後のビジネスモデルが描けない」と不安を抱き、守りの体制に入ってしまう企業は少なくないと思われます。しかし、脱炭素が進んでいない企業へのグローバルの金融機関や投資家による投資控え、企業の環境・社会・ガバナンスへの取り組みを評価して投資先を選定するESG投資の拡大の流れは今後逆行することはなく、むしろ強化されていくでしょう。東日本大震災時の原子力発電所の事故による影響もあり、日本の脱炭素化は諸外国と比較して立ち遅れています。サプライチェーン上にある中小企業も含めて、CO2を排出する部品や資材を使用していると、グローバルマーケットでの競争率の低下は避けられません。脱炭素に取り組まないことによるビジネスチャンスの喪失は、初期投資のコストを大きく上回ると考えられます。

逆に、今からエネルギー効率化を図り、再エネへの切り替えを進めれば企業価値の向上につながります。脱炭素化を足かせとするのではなくビジネスチャンスと捉え、企業価値を高めるための行動変革を起こしていただきたいと思います。


― ありがとうございました。続く後編では、特に中小企業が脱炭素の取り組みを始めるための
ロードマップや利用可能な支援制度、企業の環境対策部署の担当者に知っていただきたい考え方などについてお伺いしたいと思います。

▼後編はこちら


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