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変化が激しい時代の「人的資本」の考え方〜人的資本・社会関係資本・心理的資本を知ろう①〜

目次

人的資本を知る
「人的資本」が注目される背景とは
「社会関係資本」・「心理的資本」とリーダーシップ

人的資本を知る

2023年3月度から「人的資本情報の開示」が始まることをご存知でしょうか。まずは有価証券報告書を提出する上場企業約4,000社が対象となりますが、上場を目指す企業、人材の確保・定着に取り組む非上場企業にとっても無関係な動きではありません。こうした取り組みが始まった背景には、企業価値の評価指標が工場や施設などの有形資産から人材や知財などの無形資産へとシフトしたこと、企業の持続的成長には「人的資本」が重要である、という考え方が企業において広がってきたことなどがあります。
 そもそも昨今の「人的資本」への関心は、国外では2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した「人的資本に関する情報開示のガイドライン」、国内では2020年9月に経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」の「人的資本経営」の記載などから始まりました。人的資本経営とは人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことにより、中長期的な企業の価値向上につなげる経営のあり方です。これは人材を「資源」、すなわちコストとして見ていた従来の経営の考え方とは大きく異なります。人的資本経営では無形資産こそが持続的な企業価値向上の推進力であり、なかでも人的資本への投資はその中核をなすものと考えられています。

「人的資本」が注目される背景とは

「人的資本」すなわちヒューマンキャピタル(human capital)は、アダム・スミスが「国富論」のなかで固定資本の1つとして挙げた概念です。特別なスキルと熟練を必要とする職業のために、時間と労力をかけて教育された人材を高価な機械になぞらえたのが始まりといわれています。さらにノーベル経済学賞を受賞したゲーリー・ベッカーは、1964年に発表した経済論文のなかで人的資本を「教育や訓練で高められる人間の能力」、「従業員個人が持つ能力・知識・スキルなどの総称」と定義し、あらゆる投資のうちで人的資本への投資を最も価値あるものに位置付けました。
 
 このように古くから存在する人的資本の概念が今注目されている背景には、バブル崩壊後の長期デフレ、グローバル化やIT化の波といった日本企業をめぐる環境の急激な変化、これに伴う従来の日本型人事の限界があると考えられます。人材の流動化が進み、ジョブ型雇用や成果主義評価が増えつつある状況下で企業が持続的な価値創造を実現するために、人材戦略は欠かすことのできない要素です。
 さらにESG経営やSDGsへの関心の高まりも、人的資本という考え方を後押ししています。ESGのEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)は企業が持続的に成長していくために重視すべき3つの観点で、Social、Governanceと関連する人的資本はESG投資の判断要素となります。さらにSDGsの目標には雇用、教育など人的資本経営の目標と共通するものが多く、SDGsに取り組む企業にとって人的資本経営はきわめて重要です。

「社会関係資本」・「心理的資本」とリーダーシップ

人的資本に加え、社員が保有する資本として「社会関係資本」・「心理的資本」が近年注目を集めています。
社会関係資本は人と人の関係性に埋め込まれた資本であり、人の協調行動を促す信頼や互酬性の規範、持続的なネットワークなどの社会効率性を高めるものとされています。人的資本が「何を知っているか」なら、社会関係資本は「誰を知っているか」と言い換えることもできます。一方、心理的資本は「自分が何者か」、つまり個人のポジティブな心の状態を意味し、スキルや能力を活用する際のエンジンとして位置付けられます。
 そして変化の激しい時代に求められるのは、チームを引っ張っていく従来型の強いリーダーシップではなく、人的資本を最大化し、それぞれのキャリアを支援する新しいリーダーシップです。人的資本の文脈では個人の能力やスキルがクローズアップされがちですが、社会関係資本の重要性を理解して人と人をつなぎ、組織で共有された目標達成に向けて心理的資本を高め、一人ひとりが自律的に動ける流動的なチームを作れることが重視されます。
これら2つの資本は人的資本を超える新たな概念として登場しましたが、人的資本の考え方を否定したり、取って代わったりするものではありません。社会関係資本・心理的資本は人的資本と相互補完関係にあり、広い意味では人的資本の一部といえるでしょう。
続く第2回では、社会関係資本の考え方についてより詳しくご紹介していきたいと思います。

参考文献:
内閣官房庁:非財務情報可視化研究会.人的資本可視化指針[https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf]
金融庁:2022事務年度金融行政方針 [https://www.fsa.go.jp/news/r4/20220831/20220831.html]
上林周平著・編、田中研之輔監修 『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』 アスコム、2022年
服部泰宏 『組織行動論sの考え方・使い方』 有斐閣、2020年

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