
Column
コラム
失敗できる組織が離職を防ぐ 〜「正しく失敗する技術」をマスターするには〜
失敗を恐れない組織づくり
「失敗は成功のもと」という言葉は、古くから親しまれてきました。誰もが失敗の原因を見直し、そこから学べばいずれ成功に繋がることを知っています。しかし、実際に自分が失敗したときにその原因を冷静に振り返り、改善して次に活かすことは容易ではありません。特に、成果や効率が重視される組織文化では、失敗を許容する風土が業務管理の観点からなかなか育ちにくいと考えられます。
変化が激しく、不確実性が高い現代では、「想定内の成功」を繰り返すよりも、挑戦と試行錯誤を重ね、失敗から学ぶ姿勢が重要となります。失敗が許されない組織やチームでは、価値あるイノベーションが生まれにくいだけでなく、失敗を恐れる若手メンバーの離職リスクも高まります。
「心理的安全性」の提唱者として知られるエイミー・エドモンドソン教授は、最新の著書『失敗できる組織』で、不必要な失敗を避けて有意義な失敗から学ぶための「失敗の類型化」と、上手に、正しく失敗することで生産性を高めるためのフレームワークを提言しました。1)
本コラムでは、同書をもとに「正しい失敗」とは何か、そして正しく失敗するための実践的な方法についてご紹介します。
失敗を許容できるチームかを診断しよう
まず、この1週間を振り返ってみてください。あなたが所属する組織やチームで耳にした割合が多かったのは、良い報告でしょうか?悪い報告でしょうか?進歩か問題か、賛成意見か反対意見か、「万事順調」か「助けてほしい」か、どちらが多かったでしょうか。

表の左側の割合が多い場合、その組織やチームに健全な失敗文化が根付いているとは言えません。実際にはたくさんの失敗が起きているのに隠され、オープンに議論できる機会が失われている可能性があるのです。しかし、失敗を忌避し、失敗して混乱し、非難を恐れて隠そうとするのは人間の本能です。この「忌避」と「混乱」と「恐怖」がある限り、失敗の隠蔽はそう簡単にはなくなりません。
だからこそ、まず「人間は失敗する生き物である」と受け入れ、忌避感情をやわらげること。そのうえで、「失敗の類型化」で失敗時の混乱を整理し、「正しく失敗する技術をマスターする」ことで失敗への恐怖を軽減することが重要になります。
「基本的失敗」・「複雑な失敗」・「賢い失敗」に分類しよう
エドモンドソン教授は、失敗を「基本的失敗」・「複雑な失敗」・「賢い失敗」という3つのタイプに分類しています。
①基本的失敗:よく知っている領域で起こる単純ミス。手抜きや不注意で生じるため、予防が可能。
②複雑な失敗:よく知っている領域で複数の要因が積み重なり、予想できない形で相互作用して起こる失敗。複雑でコントロールが難しく、予防困難。
③賢い失敗:挑戦が必要な場面、イノベーションの過程で発生する、学びに繋がる失敗。
「基本的失敗」と「複雑な失敗」は「正しくない失敗」です。極力減らさなくてはなりませんが、結果を罰するのではなく、「基本的失敗」はミスが起こらないように予防策を講じること、「複雑な失敗」は前触れのような小さな失敗の警告サインを見逃さず、失敗を最小限に食い止めること、常に警戒心を持って備えることが求められます。小さな失敗の段階でオープンに問題共有できる「心理的安全性」も重要です。
一方、「賢い失敗」は歓迎すべき学びの機会と言えるでしょう。エドモンドソン教授は、「賢い失敗」の条件として次の4点を挙げています。
①新たな領域で発生している
②望ましい結果に近づくチャンスがある
③既存の知識や仮説に基づいている
④必要最小限の規模で実施されている(パイロットプロジェクト)
失敗したとき、まずは「これはどのタイプの失敗か?」と立ち止まって考えてみましょう。あらかじめチームで3つの失敗タイプを共有しておき、失敗したときに「基本的失敗」と「複雑な失敗」であればチームで対応策を考え、「賢い失敗」であればチームで賞賛するなど、それぞれの失敗から学びとろうとする環境を整えることが重要です。
正しく失敗する技術をマスターしよう
4つの習慣で「正しく失敗する力」を養う
新しいことに挑戦すれば、失敗のリスクは避けられません。リスクを取ればそれだけ失敗は増えますが、成長の機会も増えていきます。繰り返し失敗することで、正しく失敗できる「失敗筋」が鍛えられ、上手に失敗できるようになります。
エドモンドソン教授は大事な場面で正しく失敗できるように、まずは日常生活で「正しく失敗する力」を養うための4つの習慣を提案しています。
① 何かに粘り強く取り組む
② 振り返りの時間を持つ
③ 責任を引き受ける
④ 謝罪する
これらの習慣は、私たちが失敗との間に健全な関係を築くための基本動作と言えるでしょう。
「自己認識」「状況認識」「システム認識」を高める
失敗から学ぶためには、「自己認識」、「状況認識」、「システム認識」の3つの能力を高めることも重要です。
「自己認識」は自分の中にあるバイアスや思考の偏りから失敗の原因を理解する能力、「状況認識」は特定の状況にどのような失敗の可能性が潜んでいるかを読み解く能力です。そして「システム認識」は、私たちの行動が意図せざる結果を引き起こす複雑系において、失敗の原因となるさまざまなシステムの要素間の相互作用を理解する能力です。
特に「システム認識」が身につくと、職場やプライベートで何かがうまくいかなかったとき、「ほとんどの失敗は自分だけに責任があるわけではない」と理解でき、失敗を過度に恐れなくなります。さらにエドモンドソン教授は、「システム認識」は失敗を防ぐだけでなく、組織目標を達成するためのシステム設計にも役立つと述べています。
健全な失敗文化で離職を防ごう
健全な失敗文化がある組織やチームでは、「賢い失敗」が評価されます。「賢い失敗」なくしてイノベーションは生まれず、イノベーションなくして長期的に存続できる組織もありません。
失敗できる組織とは、すべての失敗を容認するのではなく、失敗を分類して「基本的失敗」や「複雑な失敗」を防ぎ、個人を責めずにシステムを変えていく組織です。そして「賢い失敗」を称え、そこから学ぶことで、「正しく失敗する技術」がマスターでき、「心理的安全性」が高い組織風土が醸成されます。
従業員が安心して挑戦できる職場づくりのために、ここで紹介した「正しい失敗」の考え方をぜひご活用ください。
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参考文献 1)エイミー・C・エドモンドソン 『失敗できる組織』 早川書房、2025年
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