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キャリア自律が予期せぬ離職を防ぐ
~自己決定とポジティブ・アフェクトの大切さ~

キャリア自律は離職に繋がる?

組織活性化や企業の継続的な発展において、若手社員は欠かせない存在です。しかし、昨今の若手世代はSNSなどを通じて同世代と自分を常に比較しているため、キャリアに対して不安を抱きがちです。常日頃から「このままこの会社で働いていてよいのだろうか」という懸念を抱き、キャリア構築衝動に駆られやすい傾向が近年明らかになっています1)。

こうしたネガティブなキャリアへの懸念や衝動的な離職は、企業側・従業員側ともに避けたいところです。そのためには、一人ひとりの従業員が自身のキャリアについて主体的に考え、学び行動する「キャリア自律」が求められます。

企業側も従業員のキャリア自律を促し、組織全体のパフォーマンス向上に繋げることが求められますが、残念ながらキャリア自律のサポートが積極的に進められているとは言い難い状況です。

キャリア自律のサポートが進まない背景には、企業側の「従業員のキャリア自律を促すと離職してしまうのでは?」という危惧が少なからずあると考えられます。しかし、従業員のキャリア自律を妨げ、囲い込もうとする組織では、若手社員が「先輩や上司みたいになりたくない」、「この職場で働いていても成長しない、市場価値が上がらない」と感じ、新たにキャリア形成できる環境を求めて離職してしまう可能性があります2)。

キャリア形成が前提となる時代に、企業に求められるのは人材定着に繋がるキャリア自律の促進です。では、キャリア自律した人材の離職を防ぐために私たちができることは何でしょうか?

自己決定できる自由が組織への愛着を生む

ここで立ちどまって考えておきたいのが、「自ら選択する」ことの意味です。複数の選択肢があるなかで、「自ら選択する」という行為そのものが私たちの脳を活性化させ、モチベーションを高め、パフォーマンスを向上させることがわかっています。これを「自己決定理論」といい、外的な圧力による行動は統制的動機づけ、自分の自由意志に従った行動は自律的動機づけとして区別されています3)。

キャリア自律した人材は市場価値も高く、転職を含めたキャリア形成を意識するようになります。他社への転職という選択肢があるなかで、従業員が外部から強制されるのではなく、「この組織を自ら選択している」と感じられれば、モチベーションと組織へのエンゲージメントは自ずと高まると考えられます。

さらに自己決定理論では、人間は「自律性」・「コンピテンス(有能性)」・「つながり」という3つの心理的な欲求が満たされることでモチベーションが高まる、と考えられています。つまり、自ら選択する自由があると感じること(自律性)、自分に課題を達成できる能力があると感じること(コンピテンス)、チームのメンバーや組織との一体感、社会への貢献を感じること(つながり)がある程度バランスよく満たされているとモチベーションが高まり、持続するのです。

具体的には日々の仕事に裁量権があり、自身のキャリア形成や選択の自由が尊重されていること(自律性)、仕事の課題を達成し、成長している、前に進めていることが実感できるフィードバックや明確なビジョン・評価軸があること(コンピテンス)などが重要と考えられます。

このように「自律性」と「コンピテンス」は人材配置や研修、仕事の仕組み、評価システムなどを改善することで高められそうですが、「つながり」は具体的な対策が難しい要素かもしれません。そこで注目したいのが職場環境における「アフェクト」です。

離職に繋がりかねない「ネガティブ・アフェクト」に注意

「アフェクト」とは、日常生活で頻繁に起こっているが意識されず、人間の判断や意思決定に影響を与える淡い感情のこと。「エモーション」=激昂する、泣く、好き・嫌い、といった明確な感情とは区別されます。エモーションは他人でも認識しやすく、部下が激昂したり泣いたりすれば上司も「離職してしまうかもしれない」と察知できるでしょう。しかし、ビジネスの場でエモーションを感じるような状況はめったにありません。

一方、アフェクトは仕事上のささいな出来事に対してごく小さな振幅で無数に生じています。アフェクトは本人でさえ認識することが難しく、自覚したとしてもすぐに忘れてしまいます。しかし、日々生じているアフェクトの積み重ねが私たちの考えや価値観、意思決定に大きな影響を及ぼしているのです4)。

アフェクトには「ポジティブ・アフェクト」と「ネガティブ・アフェクト」があり、「ネガティブ・アフェクト」=淡い不安や不満、不快、恐れには特に注意が必要です。本人も認識できていないネガティブ・アフェクトは仕事上の「なんとなく気が重い」、「大きな理由はないがこの職場にいたくない」といった漠然とした感情となります。こうしたネガティブ・アフェクトが蓄積し、結果として若手社員に「サイレント退職」や「静かな退職」を決意させてしまっている可能性があります。

上司は部下のアフェクトに気を配り、チーム内のネガティブ・アフェクトをポジティブ・アフェクトに転換させることが重要となります。指示出しや声掛け、相談時の受け答えに始まり、1on1などで「なんとなく」や「大きな理由はないが」の部分を言語化し、どうすればその原因を取り除けるかを一緒に考えるのもよいでしょう。また、「自律性」の要素である仕事の裁量権や選択権を持たせる、やりたいことをやらせてみる、といった取り組みは自信や自己肯定感に繋がり、ポジティブ・アフェクトが高まります。若手社員の失敗を責めず、ポジティブな学びの機会とする組織風土の醸成も重要です。これらは自己決定理論でいう「つながり」を高める取り組みですので、キャリア自律やエンゲージメントに好影響をもたらします。

本コラムでは、若手社員が自身の役割と成長を自覚できるようキャリア自律を促し、ネガティブ・アフェクトが少ない環境を作ることが組織全体のパフォーマンス向上に繋がることをご紹介しました。若手社員のキャリア自律をためらわずサポートし、ポジティブ・アフェクトで人材定着の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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【参考文献】
1)産業能率大学総合研究所. 変化の時代を生き、キャリアに対する漠然とした不安を抱く若手社員の育成のあり方を考える.[https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/feature/202502/03-01.html]
2)三菱総合研究所.企業の持続的な成長をもたらすキャリア自律(後編)企業がキャリア自律時代を生き抜くポイント.[https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20240626_2.html]
3)Deci EL, Ryan RM. Self-Determination Theory: A Macrotheory of Human Motivation, Development, and Health. Canadian Psychology. 2008; Vol.49; pp.182-185.
4)Slovic P, Finucane ML, Peters E, et al. The affect heuristic. European Journal of Operational Research. 2000; vol.177: pp.1333-1352.

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