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■ダイバーシティとインクルージョン■   人体に学ぶ企業の多様性 ~腸内フローラと免疫細胞~


人体に学ぶ企業の多様性~腸内フローラと免疫細胞

 

企業において重要な経営課題の1つとされる多様性(ダイバーシティ)。ただし、従来とは異なる多様な人材を雇用するだけでは十分ではありません。各人材の考え方や能力の多様性を受け入れて最大限に活かし、そこからイノベーションを生み出し、価値創造につなげていく包容力(インクルージョン)が求められています。

21世紀は「腸の時代」と呼ばれているのをご存知でしょうか。組織におけるダイバーシティとインクルージョンの推進を考えるとき、腸という臓器の不思議なシステムは1つのヒントになるかもしれません。腸は、人間にとっていわば「他者」である細菌たちと共存することで益を生み出し、細菌の力を借りて免疫細胞を教育している特殊な臓器なのです。

意外と知らない?腸内細菌は多様性がカギ

人間の腸には100兆個以上、重さにして1.5~2kgもの細菌が住んでいます。特に大腸には数百種類以上の多様な細菌が生息しており、顕微鏡を覗くと細菌たちが花畑(flora)のように群生しています。このことから、腸内細菌たちの集まりは「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。腸内フローラは性別や年齢、居住地域、生活習慣などによって大きく異なり、1つとして同じものは存在しません。

私たちが食べたものは胃で消化され、小腸で吸収されますが、消化・吸収が難しい食物繊維やオリゴ糖などが腸内フローラのエサになります。腸内細菌たちは人体が消化できなかった食べものを分解し、消化を助けるだけでなく、その過程で人体によい影響を及ぼす「短鎖脂肪酸」*1を産生します。短鎖脂肪酸は大腸でエネルギー源になったり、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促したり、病原体の侵入を防ぐ腸粘膜のバリア機能を高めたりする、とても有益な物質です。さらに短鎖脂肪酸は腸から血管に入りこみ、全身をめぐって健康維持や老化防止に働くこともわかっています。

これまで、腸内フローラの細菌たちは短鎖脂肪酸を産生する「善玉菌」、人体に有害な物質を産生する「悪玉菌」、どっちつかずの「日和見菌」に分類されてきました。しかし近年、腸に住む細菌を善・悪で区分する考え方自体が見直されつつあります。悪玉菌と呼ばれてきた細菌たちも消化・吸収を助け、状況によっては免疫機能を高める重要な役割を果たします。一方で、善玉菌と呼ばれる細菌たちのなかにも、実は人体に有害な影響を及ぼすものがいます。つまり、「善玉菌が多ければよい」わけではなのです。

では、理想的な腸内環境とは何でしょうか?

最新の遺伝子解析技術で明らかになったのは、理想的な腸内環境とは「腸内フローラの多様性」である、ということ。腸内に住む細菌の種類が多ければ多いほど腸内フローラの均衡が保たれ、人体にも好影響を及ぼすことがわかってきたのです。

 

腸には免疫細胞の教育システムが存在する

外の世界とつながっている腸は、病原体や異物が侵入してくる入り口にもなります。このため、人体に存在する免疫細胞の約7割が腸に集中しています。免疫細胞は体内に侵入してきたウイルスや細菌、発生した異常細胞などを認識して攻撃する細胞ですが、興味深いことに腸にただ存在しているだけでは免疫機能を発揮しません。未熟な免疫細胞が成長し、免疫機能を発揮できるようになるには、腸内フローラとの協調関係が重要です。
たとえば、小腸の壁には「パイエル板」という特殊な免疫器官があります。パイエル板のなかにはたくさんの免疫細胞が存在しますが、外敵とぶつかる現場に未熟な免疫細胞をいきなり送り出すわけにはいきません。そこで重要なのが、腸内細菌をパイエル板内にわざと引き込んで未熟な免疫細胞と接触させる仕組み。つまり、外敵と対峙する前に免疫細胞を訓練し、攻撃すべき細菌・攻撃しなくてもいい友好的な細菌を教えるシステムが腸には備わっているのです。

 

腸に学ぶダイバーシティとインクルージョン

人体の機能は合理的で無駄がなく、急な変化や想定外の状況が起きても、何段階ものセーフティシステムで対応しうる精巧かつ強靭なネットワークであることに驚かされます。腸内細菌と互恵的なパートナーシップを築き、私たちの健康を保っている腸はそのネットワークの一部。多種多様な腸内細菌が存在する腸ではアクシデントが起きても腸内フローラのバランスは崩れず、人体にとってよい物質を産生しつづけます。

これを企業組織でたとえると、不測の事態にも柔軟に対応できる危機対応力をもち、イノベーションを生み出せるのは多様な人材が集まった組織である、ということ。また、腸内フローラと協調して免疫システムの調整力を高め、細菌の力を借りて免疫細胞を教育する仕組みは、さしずめ人材育成に社外の力を活かす異業種交流です。

形式だけのダイバーシティとインクルージョンではなく、多様な人材が能力を発揮できる組織風土をつくるために、人類誕生の昔から共生してきた腸内フローラと免疫の関係に学ぶところがあるかもしれません。

*1:炭素が鎖状に連なる構造をした有機酸の一種。酢酸、プロピオン酸、酪酸がある。

参考文献:
Chen K, et al. Rethinking mucosal antibody responses: IgM, IgG and IgD join IgA. Nat Rev Immunol. 2020; vol. 20: pp. 427-441.
飯島英樹、ほか.腸内細菌と免疫系の接点.腸内細菌学雑誌.2020;vol. 35
丸山優二ほか著 『人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う』 NHK出版、133-149頁、2019年

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