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  •   ■傾聴力■  人体に学ぶ企業の多様性~今注目される臓器間ネットワーク~

  ■傾聴力■  人体に学ぶ企業の多様性~今注目される臓器間ネットワーク~

人体と企業は似ている?
 人体は、何十兆個もの細胞が集まって臓器や血管、筋肉などを形成し、それぞれが生命維持活動を行うことで正常に機能しています。一方、企業は社員一人ひとりがグループや部署・部門に属し、それぞれが業務を担うことで正常な事業活動が維持されています。これだけでも、「企業と人体は似ている」と感じる方は多いのではないでしょうか。実際、企業を人体にたとえる組織論はそう珍しいものではありません。

ただ、これまで企業がたとえられてきた人体観がやや時代遅れになりつつあるのも事実です。「企業=人体」というコンセプトは、タテ社会的な情報伝達の仕組みをベースとしたもの。つまり、脳(=社長)が人体(=企業)の司令塔として指示を出し、臓器(=管理職)や細胞(=社員)はその指示に従う、というトップダウンの考え方が前提になっているのです。

トップダウン式から「横のつながり」の人体観へ
人体にはもともと、タテ社会的な情報伝達システムが備わっています。外部情報の伝達・処理を行う神経系や、ホルモンを利用する内分泌系などがその代表です。2017年に日本放送協会が放送し、話題を呼んだ「NHKスペシャル シリーズ人体 神秘の巨大ネットワーク」のプロローグでは、神経系や内分泌系のようなタテ社会的な情報伝達の仕組みに加え、第3の情報伝達系である臓器・細胞間のネットワークが取り上げられました。
この新たなネットワークでは、臓器や細胞同士は脳を介さずに互いに会話しながら連携していることがわかってきています。つまり、臓器間ネットワークはトップダウンでもなければボトムアップでもない、「横のつながり」なのです。企業にたとえるなら組織図上の横や斜めのコミュニケーションであり、部門横断的な課題解決法といえるかもしれません。「横のつながり」を重視する人体観へのパラダイムシフトは、予測困難で不確実なVUCA時代を企業が生き抜いていくためのヒントになるのではないでしょうか。

臓器間ネットワークに学ぶ「傾聴力」
 臓器間ネットワークでは、腎臓、心臓、腸などの臓器らしい臓器はもちろん、脂肪や筋肉、血管、骨なども会話に参加しています。それぞれの臓器はシグナル分子*(ホルモン、サイトカイン、神経伝達物質など)を分泌してメッセージを発信しますが、この発信は脳から全身へのトップダウン式の「指令」ではなく、独り言のようなものです。
たとえば心臓は、心臓のポンプ機能に負担がかかるとANP*という物質を出し、「疲れた」とつぶやいていることがわかってきました。心臓の独り言は血液に乗り、全身に拡散されていきます。メッセージを受け取った腎臓は体内の血液量を減らすために尿をたくさん作り、血管細胞は血管を広げることで血圧を下げ、ポンプ機能の負担を減らして心臓を休ませてやるのです。
ここで注目したいのが、独り言を受信する側の臓器や細胞に「聞く耳(=受容体)」がない場合、メッセージは素通りされてしまう、という点です。誰かの独り言を積極的に聞き取った臓器や細胞だけが、発信元の臓器の課題を解決するために自発的に動くと考えられています。

こうした人体の会話の仕組みは、今ビジネスのあらゆる場面で必要とされる「傾聴力」を想起させます。傾聴は英語で”active listening”といい、経済産業省が提言する「社会人基礎力」の要素の1つにも数えられています。傾聴では相手の話を否定せずに共感し、受容するとともに、相手の言葉の裏側にある真のメッセージに耳をすませることが重要です。心臓の「疲れた」というつぶやきの裏に潜む「血液の量を減らしてほしい」、「血管を広げてほしい」という本音が誰かの耳に届いたからこそ、人体は今日も滞りなく活動を維持できているのですから。企業の組織やチーム内でも、一人ひとりの傾聴力を高めることが課題解決に結び付くのではないでしょうか。

*1:サイトカインは細胞間の情報伝達を担うタンパク質の総称。神経伝達物質はドーパミンなどが代表で、細胞-ニューロン間の情報伝達を担う。
*2:心房性ナトリウム利尿ペプチドの略。心房から分泌されるホルモンで、体液量や血圧調節などで重要な役割を担う。
参考文献:丸山 優二ほか著 『人体 神秘の巨大ネットワーク 臓器たちは語り合う』 NHK出版、13-38頁、2019年

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